ニコン101号

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アポロ計画という言葉に
今でもビビッドな反応をしてしまう世代にとって、このような画像を見ると「月の石」なのではないか? と思ってしまうかもしれません。上の写真は、20世紀の歴史を語る上で非常に重要なサンプルであり、日本光学(現在のニコン)と深い関わりを持つ物体です。ニコンといえばアポロ計画やスペースシャトルの記録用カメラを開発していたことでもよく知られていますよね。では、これが何なのかを説明する前に、もう一つのサンプルを観察してみましょう。

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この物体は何なのか?
先ほどのサンプルよりも複雑な構造が見られます。砂礫を固めたような強固な構造で、その表面には何層も塗料のような素材が塗布されているようにも見えます。全長は約4センチ程度のサイズで、大きな壁状の物体が破砕されたことで生じたフラクションと思われます。このサンプルは、どうやら宇宙からの飛翔物や月の石などではなく、地球上に存在していた建造物の断片のようです。

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在りし日のニコン101号館 (2016)

 

サンプル1と2が何処から来たのかといえば、日本光学時代から連綿と連なるニコンスピリッツの源泉とも呼べるニコン大井製作所であります。しかも、大井製作所で最も古い歴史をもつ建屋であるニコン101号館の断片なのです。竣工したのは戦前の1933年。強固なRC造をベースとする5階建てで、戦時中には米軍の東京への空爆にも耐え、戦後になり平和品として日本光学がカメラ製造を開始した際には設計・製造の中核を担う設備を備えた建屋でした。ここで距離計連動機のニコンS型に始まり、一眼レフのニコンF、F2、F3を生産していただけでなく、ニコンF6やD2などの試作もされていたという由緒正しい歴史的建造物が、2016年に閉鎖・解体されてしまったのでした。

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ニコン101号館の断片(2017)

 

老朽化が原因で歴史的な建造物が姿を消してしまうという事象は日本では当たり前のように行われることです。継続可能性に投資するよりも、取っ払って新しい建物にした方が経済の回転率が高まるし生産性も向上する。そのような極めて日本的な考え方でニコン101号館が消滅してしまったのはニコンファンとしては残念な限りです。そんな気持ちが通じたのか、フィルム時代から連綿と続く堅牢かつ機能的なニコン製カメラのイメージそのままのニコン101号館の断片を、奇特な方が私に譲渡してくれたのです。

ある意味「ベルリンの壁」よりレアな物体であるニコン101号館の断片は、このようにプラスチックケースに収納して家宝として保存することにしました。このケースがニコンの顕微鏡用対物レンズのケースだと見破ったアナタは、かなりのニコン通ですね。